トゥルキスタン夜話

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2006.07.11 Tuesday

「R」と「L」のカルケドン

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    前回の続きです。

    餅は餅屋というか、カドゥキョイのことはカドゥキョイに聞け、と思ったので、カドゥキョイ区のHPで歴史やら、都市伝説の真偽を調べてみた。
    で、あっけなくなぜ「法官村」であるのかわかってしまったので、誰かの突込みが入らないうちに、自分で書いておく。

    それによると、カドゥキョイに人間が住み始めたのは紀元前5000−3000年のこと、今のフィキル・テペの辺りだそうだ。
    その頃は「ハルハドンHarhadon」という地名の商業的コロニーだったらしい(ハルハドン・・・意味は不明)
    その後、内陸のフィキルテペ−ハサンテペのあたりから、もっと沿岸の今のモダからヨールトチュの辺りに町自体が移動し(3m−5m海面が下がったらしい)Halkedon (銅の町)と名づけられた。

    で、前658年くらいにサライブルヌ(カドゥキョイの対岸・トプカプ宮殿のあるところ)の辺りの美しさに惚れ惚れしたビザス王が、対岸のよりよい土地に気づかないhalkedonの住人をみて、「お前らの眼は節穴かい?」、という意味を辛辣に込めて「盲人の地kalkedon」と名づけた、というような伝説が残っている。個人的にこの意地悪な王様のセンスは大好きだ。そしてこれは、最初から考えたというよりも、おそらく銅の町(=バクルキョイじゃん!)というのを「モジって」似た意味で言葉遊びをしたのだろうと推測できる。(「北海道→でっかいどー」みたいなもんか?)

    (ここで、その「盲人」をフェニキヤ人としている説もあるらしいが、年代的に変なので、むしろ、前685年ごろ入植したらしき、反デルフォイ同盟のメガラ人・ドーリア系ギリシャ人じゃないの?とも思う。)

    そして、時代は下ってオスマン時代初期、征服王スルタン・メフメットはこの「カルケドン」を、君府初の「kazi(イスラム法官)」となったジェラールザーデ・フズルに統治させた。(この人は、なんとあの有名なナスレッティン・ホジャの娘の孫でもあるらしい!ナスレッティン・ホジャはトルコ世界の『一休さん』みたいなトンチは鮮やかダヨ♪の人で、トルコ人からウイグル人まで皆大好き。)
    「カズ殿の土地」だから、この地のトルコ名は名前はkazi村→kadikoyなわけである。

    で、いつもの本題である。
    (私は薄っぺらくて微視的な人間なので瑣末なことが、むしろ本題になる。)

    つまり、このカドゥキョイ市の説明によれば、カドゥキョイの古名は、harhadonから、halsedonになったわけである。

    ここで注目したいのは、「r」が「l」に変化していることだ。(ま、h→kとかh→sはこの際、おいておく。前者は異様に多い音韻変化であり、後者はあまり類例の見られない音韻変化だ。)

    日本人が日本人たるゆえん!と言われるこの「L」と「R」問題だが、探してみると、結構ほかの言語でもこの二つの音が混同される事例、というのはある。特に外来語はそもそも未知の言葉が耳から入ってくるわけだから、混同は起こりやすい。

    トルコ語に流入した外来語の中にも「r」から「l」に変化した言葉というのは、こんなに存在する。
    ★bilâder ← birader(ペルシャ語)
    ★çalpara ← çārpāre(ペルシャ語)
    ★dülger ← durūd-ger(ペルシャ語)
    ★gerdel ← khardari(ギリシャ語)
    ★kalbur ← girbāl(アラビア語)
    ★kehlibar ← kehrubā(ペルシャ語)
    ★lombar ← rombaglio(イタリア語)
    ★maşala ← maşaray(アルメニア語)
    ★melhem ← merhem(アラビア語)
    ★pırnal ← prinari(ギリシャ語)
    ★tırtıl ← t‘rt‘ur(アルメニア語)
    ★tulumba ←tromba (イタリア語)

    これは、子音の音韻変化としては、結構多いほうだといえよう。
    だから「r」と「l」を間違うことは日本人に限った話ではなく、それ程異常なことではないのだが・・・ま、気をつけるにこしたことはない。

    しかも発音がうまくできないのはまあ、外国人としてはキュートなのだが、いつまでもその極東キッチュな発音(嘘つけ)に甘んじていると、文章を書くときにもこれを間違う。そしてそれはあまり可愛くない。
    トルコ本にも「garata塔(『地球の歩き方』)」とか「1kiro(『イスタンブール・へそのゴマ』)」と書いてあったりして、モノ悲しいのだ。

    私が見た中で、一番恥かしい…と思ったのは、江國香織氏が翻訳したこの本
    なんと、1ページ目から、「犬は高貴だ!」と誤訳しているのである。
    要は、「royal(高貴)」と「loyal(忠実)」を間違えているのだが、作者はともかく、校正とか、編集者とか、何人もの人の眼を通しているはずというのに、出版されるまで誰もそのことに気づかないっつーのが、「カルケドン!(お前らの眼は節穴か?)」という感じ。
    さらには、この本に関するどのレビューやら読書感想ブログ読んでも、誰もそのことに触れていない・・・。(読者って犬?カルケドン!)
    いったいこの本が何冊売れてるんだかしらないが、原文の英語としっかり併記されているのに(しかも最初のページで、一ページに付き一文しかないからすごく目立つ)、だーれも注意を払わないというのはスゴイ状況である。
    かくも我々は「R」と「L」の違いに鈍感なのだ。

    自戒もこめて、書きますが、もはや普通の日本人の耳にはこの二つの音を聞き分ける能力がないわけなので、通常の10倍の努力で補うしかない。アヤフヤな時は辞書をひくべし。発音の時も、しっかり言い分けるべし。


    ★追記
    ちなみに私にはカドゥキョイは「海賊版・コピー商品のメッカ」「アウトレット・タウン」というイメージがある・・・。
    テオポンポスという人が前4世紀に「カルセドンの人は昔は生真面目な人たちだったのに、後から来たビザンチオンの人々の民主主義的自由に感化され、自堕落な快楽にどっぷりつかってしまった。」みたいなことを書いているらしいが、それが、ちょっと現在の状況を髣髴とさせる。基本的には「堅気の市民」が住む町で、なんかちと小奇麗さそのものが胡散臭くて、所得の割に背伸びしている感ある…というか。しかし、実はこの地区は、超グルメタウンでもあるので、トルコ料理好きには外せないところでもある。

    この浦安のような素敵な街・カドゥキョイの中でも「庶民成金」臭くない雰囲気を持っている地域が、「モダ」というところ。
    一度上品な老婦人のアパルトマンに招待され(外観はボロボロなのに中はスゴイ)、オスマン朝時代の金糸銀糸が乱舞する豪華な衣装を着させてもらった。(舞妓体験みたいなものか。)
    この地区に住む人は昔からの名家が多いので、博物館級のコレクションが家に眠っていたりするのだ。

    あのドゥイグ・アセナ(武闘派フェミニスト)もモダ出身だと聞いた・・・一度だけお会いしたのだが、柔らかな雰囲気を身に纏い、瀟洒で美しかった(カトリーヌ・ドヌーヴをより美しく、性格よさそうにした感じ。)
    テレビで「女性がオルガズムに達したフリなどしなければならないのは、男達の責任です!」などと過激なことを言っている姿とは全然違う。私は無知で彼女に関する予備知識がなく、初対面で「アナタ誰?」みたいなことを言ってしまったのだが、「ふふっ」と笑って流してくれた。(上野千鶴子に「アナタ誰?」などと言ったら、超喧嘩吹っかけられそうだ。)
    別れ際、カンディルリの埠頭で、右手方向の海を見ながらふと彼女は、「いつ見ても海はいいわね。私はモダで生まれたの。」と青い真昼の潮風に囁いた。そして背景の波光を集め、ベージュのコートとプラチナブロンドから砂金を撒き散らすようにして、ふわりと船に乗り込んで去っていったのだった。
    (しかも私は45歳くらいだと思っていたのだが、もう60歳だそう。そして、アジダ・ペッカンのように整形の賜物ではない。美と威厳と知性と年齢が合体すると女は最強だ。彼女ならレニ・リーフェンシュタールのように100歳過ぎても曾孫の年の恋人ができるだろう。しかしこの「フェミの女神」も写真うつりは悪い模様・・・)

    ★さらに追記
    あと、このカドゥキョイ地区公式HPでもういっこ見つけたのが、この記事。(なぜか消されていて、キャッシュだけが残っている)
    ま、この記事の「カドゥキョイのカイマカム」は別人で、あの「カイマカム・モノローグス」の人ではないのだが、なんかkaymakamのよーな、内務省・警察関係者で行政職の方々は、トルコ語の統制に対し似た志向があるのではないか、と思わせるに十分な内容ではないですかい、ってことで、私は「カイマカムはトルコ語じゃないからヴァギナに怒った!」説に一票入れることにする。

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