トゥルキスタン夜話

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2006.08.10 Thursday

サムライ・ブルー

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    その後も、私はまだまだしつこく千葉シンイチ氏の死の謎に囚われていた。
    いわゆる有名人が嫌いな私だが、こういう変なマイナーネタに弱いのだ。
    去年の今頃は、私の中で『ソガチュウ〜平壌の中心でジェンキンスと叫ぶ〜』というホラー映画が上映中で、主演・曽我ひとみさんのエクトプラズムを吸い込むような『大接吻』が繰り返し演じられていたものである。(そしてその後ろで上品そうに笑うヤクザ大臣。それは熟年女性の阿鼻叫喚を絵に描いたような構図で、私はおおいに震撼しつつも釘付けだった。)
    で、どうやら今年は千葉シンイチ氏にちょっぴりとり憑かれかかった真夏の夜の夢なのだった。(私が取り付いてる、と言ったほうが的確かも)

    大体、死の謎、というのは人の好奇心をひきつける。
    『日本三大・なんで死んだかよく分からない奴』と言えば、〇暗舁概夫、風船おじさん(あれは自殺ではないのか?)、2田浩之(レイプマン役なんか引き受けたからか?)に違いないが、彼らに関しては多少情報がある。千葉シンイチ氏に関しては私の知る限りこの新聞記事しか情報源も転がっていないので、疑問に思っても解決のしようがないところが辛い。
    あのアンカラの、どこまでも真っ直ぐな通り、伸びやかなポプラ並木、砂漠性の澄んだ空気、人々の心の風通しの良さ、に象徴される爽やかな印象自体が、このサムライ大使の死のイメージのおかげでジメっとニッポン文化の湿気を帯び、なにやらそこから黴が生えてきそうな感じで、気にかかってしょうがないのである。

    情報がないのは仕方がないので、映画『憂国』で武山中尉役を演じ、周知のごとく最後に割腹自殺した三島先生の死の謎を、「また」ほり返し代替行為としようと考えた。

     まずは「憂国」日本語版を高校生以来、久しぶりに読み返してみた。日本語版と書いたのは、その後トルコ語版を読んでいるからだ(読んだだけでなく、一字一句暗記していた。hançerlemekとか変な単語を知っているのはそのせいだ。)
    で、トルコ語版で主人公を「少尉」と書いてあった印象が強く、前回そう書いたのだが、実は武山は「中尉」であった(誤訳?)。あとどうでもいいが、『花の焦げるにおい』とはあるが『百合』ではなかった・・・。
     
    そして私は、こんな文章に行き当たる。
     「共に死ぬことを約束しながら、妻を先に殺さず、妻の死を、もう自分には確かめられない未来に置いたということは、第二のさらに大きな信頼である。もし中尉が疑り深い良人で あったら、並の心中のように、妻を先に殺すことを選んだであらう。」
     これを読んだ瞬間、千葉シンイチ氏への興味がすうっと失せてしまった(小説は事実より奇なり)。そうだ、『憂国』とこの一件の大きな違いは、千葉氏は妻を殺して、自分もハラキリするのだが、憂国は中尉は先に死に、妻は後を追って『自殺』するということだ。私は戯れ歌にも描いたように、ここにどうやらひっかかってたらしい。(♪トルコに逃げて嫁殺す!切腹してチャラ、だってサムライ!♪)
     すなわち「並みの心中」という、オカマの放つ冴えた毒舌に私も共感し、「あんな『並の心中』、要は単なるサムライブルーなんだわ。」と突然割り切れたのである。(ちなみにサムライブルーとは、武士に発症するらしき欝病のことで、マリッジブルーとかの類である。その病状の最終形態はハラキリ。)

     その後は、久々に三島由紀夫への興味が復活し、さらに「三島由紀夫〜剣と寒紅〜」という本を読んで見たのだが・・・これが素晴らしい本だった。いやはや、これは私にとって史上最高の「暴露本」である。(と、いっても暴露本なんて人生で3冊くらいしか読んだ事がないが・・・。)こんな「どーせ、嘘八百の売名行為だろ?盗人猛々しい!」と酷評されている本をベタ誉めすると、馬鹿じゃないか?とか腐った女子か?と思われるだろうから、本音を言いたくないのだが、掛け値なしに感動したので、素直に記しておく。感動、というか胸が張り裂けそうに切なくなる。60年代に流行った「愛の不毛」などという言葉が、これほど似合う話もまた珍しい。
     
    私の現代風解釈も交えつつ(余計なことをしてあげます)、すごく簡単に要約すると・・・、
    夢見がちな同性愛者の少年・三島由紀夫はよく「次郎」という名を自分の小説に登場させていた。なんとなく、その名にこだわりがあるのである。時は流れ、三島は26歳。男同士の恋の変遷も一巡し、ちょうど「禁色」のモデルとなった「悠ちゃん」に失恋した時、次郎という名の学生が前触れもなく自宅に現れる。学生の用件とは「禁色」に出てくるゲイバーの場所を教えろ、というあけすけなものだ。つまり次郎は「ホモ(この本では終始ゲイとは言わずホモと言っている)」であると最初からカミングアウトしていることになる。ホモで、しかも「次郎」・・・もーこれで、三島はこいつこそは『運命の男』だと信じ込み、美丈夫な彼に恋をする。しかし、この次郎と言う奴はしょーもなくて、何がしょーもないかというと「ペドフィリア」なのである。少年が好きな男ロリコンという奴で、現代でもこれはゲイの仲間内からも軽く侮蔑されているよーな性癖なのだ。マイノリティの中のマイノリティである。さらにしょーもないのはそのことを三島にはっきり言わないことである。はっきり宣言すれば、三島だって「変態の相手なぞするもんか!」と見切りを付けられたかもしれないのに、次郎はオカマらしいミーハー心で有名人三島由紀夫と一緒に居たくてそれを隠す。で、三島は彼を犯すのだが、彼が自分に「萌えてくれない」ことに傷つく。いや、最初は恋に夢中で、その恋が一方的であることにすら気付かないのだが、次郎はだんだん増長し、ある日けたたましいやり方で、三島にそれをわからせるのだ。三島は余りにもショックだったので、少しでも美しく、逞しくなろうとボディービルに没頭する。時が流れ、15年が過ぎ(15年間ひたすら鍛える!)、三島は次郎に再会する。そして、今度は筋肉ムキムキの自分に「萌えて」くれるだろうと思ってまた試してみるのだが、相変わらず次郎は自分に反応をしめさない。体を差し出してはくれるが、欲情しても愛してもくれない。それどころか、三島とのホモネタを小説にして発表して、軍人ごっこでさらに強がりを続ける三島の恥部を暴いて裏切る。どうにも悲しくなって三島は自殺する。「君ニ愛サレヌコンナ身体、切リ裂イテシマイタイ」

    ま、超簡単に言うと、こんな感じである。私が思うに、筋書きとして「日出処の天子」という昔の漫画にとても似ている。性癖の違う人に恋をしてもいかんともしがたい、という冷酷な事実が赤裸々に描きだされていて、もどかしく、ひたすら切ない。さらには「母を恋うる記」のモチーフや、「アマデウス」的天才と凡才モチーフなどが、うまく絡められていて、本当に極上の出来なのだ。三島由紀夫のこんな情けない姿をわざわざ書かんでも・・・という声もあるらしいが、私は必要最低限のことを、努めて上品に書いていると思う。(すくなくとも「シーザーの憂鬱(叶恭子への暴露本)」などとは比べ物にならないほど上品だ。)

    で、この上なく悲しく残酷なお話なのだが、その不毛を生きる「愛する側」の人というのは、「厩戸皇子」がそうであるように、恐ろしく魅力的なのである。なんせ稀代の天才、三島由紀夫というだけでもスゴイのに、その最高峰の知性の塊が、このしょーもない次郎の気を引こうとするとき、なんとも不器用で可愛らしいというギャップがたまらない。ここまでの「ツンデレ」が漫画や小説ではなく、現実にあっていいのか、と開いた口がふさがらないほどだ。一方、次郎というのは三島の描写をずらずらとしながらも、いまだに(今年の2月に亡くなってしまったのだから分からないまま死んだのだろう)、三島の「乙女心」を全然わかっちゃいないのである。(なにしろ、愛してないから。たとえば、次郎が浴衣の下に下着をつけないことに三島が驚いているのを、自分の育ちの悪さに顰蹙したものらしいとか言っているが、おそらく、独占したくてたまらない恋人が他の人の前でそんな無防備でいるのにやきもち焼いたのだと思う。あと、透け透けメッシュの黒シャツなんか着て目立ちたがり屋だなー、とか言ってるが、おそらく次郎にセクシーだと思ってもらいたくて『特別おしゃれしたの♪』、であることを分かっていない。)

    こんな痛ましい天才の恋と孤独の喜悲劇を知ってしまってから、また憂国で描かれる完璧な愛と死の場面を読むと、三島由紀夫がかわいそうでかわいそうで(って同情されるのが大嫌いな人なだからこそ、死んだのだが)、涙なしには読めない。
    この美男美女の完璧な愛の形を経験するどころか、この上ない冷酷にさらされた三島が気の毒だ。理想の構築が完璧であるだけに。
    森茉莉か誰かも「かはひさふな三島さん」と悼んでいたが、まったく、可哀想、以外の言葉を失う。
    よって、前回、「憂国」を茶化したことを、ひどく反省する次第なのである。悪かった、もうしません。


    NOT
    ・・・それで思い出したが、私は高校生の頃、こんな幼稚なことを考えていた。
    このサムライブルーに罹ってしまった自決前夜の三島由紀夫を着のみ着のまま、神の手でひょいっとヨルダンのワディ・ラムかなんかに移し、清潔な少年かなんかに遊牧テントで一週間も世話させたら、彼はさすがにびっくりして自殺なんかやめたんじゃないか、と。で、のこのこアンマンの日本大使館に「パスポートなくしたんですけど・・・」と三島由紀夫が現れ、大ニュースになり、ごたごたしてるうちに、死ぬ機会を失う、という作戦だ。あと、タイムマシーンが発明されたら、まず、1970年11月に戻り三島由紀夫の死を食い止めよう、とか。モロッコかなんかに連れて行って無理やり去勢してしまえば、男性ホルモンが減っておとなしくなるんじゃないか、とか。ハゲるのを気にしてたようだから、よい薬を未来から持っていって毛を生やしてやろう、とか。今考えると自分が生まれる前に死んでしまった人にここまで親身になっているのが変だし、第一本人にとって大きなお世話だ・・・。しかし、この三島由紀夫を死なせないために編み出した奇天烈な作戦が後に自分のために役立ったのだから、妄想も馬鹿にしたものではない。

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    (技術系社員のぼやき 2006/09/01 6:01 AM)

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