トゥルキスタン夜話

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2007.03.23 Friday

朝鮮族とガマの油

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    以前、ウズベキスタンで首が痛くなった話を書いた。
    いまさら顛末を書くのも変な話だが、なんか思い出したので、続きを書いておく。

    次の日もクビはますます痛く、「こんなことでは、あさって飛行機に乗れないよ〜」と私はますます「無敵の病人エリカトイ」ぶりを発揮していた。
    すると、Mは「わかったわ!こんなときはアレよアレ!お隣さんから、アレを借りてきましょう」と言って出て行き、なにやら薄汚いジャムの瓶を持って帰ってきたのである。
    瓶の底にはほんの少しだけラードのようなものが溜まっている。
    「…なにそれ。」
    「これで直るわよ。万能薬なの。塗ってあげるから、首だしなさい」
    「で、なによそれ、臭いよう!臭いよう!」
    「決まってるでしょ。犬の油よ」(ウズベキ語でit yogiと言ったんだっけか?多分ロシア語で呼んでた気がする。)
    「………。」
    さすがのエリカトイも黙ってしまった。

    Mは進歩的なくせに、案外民間療法に頼りがちな女でもある。
    父親(サイラムの名士だったらしい。その町に林檎の木をせっせと植えて有名な人)と母親を共に医療ミスで亡くしているから、病院とか医者が信用できないのでである。

    以前にも私に「親戚に磁石の手を持つ人が居るの。スプーンとかがくっつくのよ。その人が触ると病気が治るの。悪いところがあったら連れていってあげる。」とか、(エミール・クストリッツァの『ジプシーの時』みたいな話だ。なんだか薄気味悪いし、いくらふんだくられるのか謎だったから行かなかったが、今から思えばちょっとひやかしておけばよかった)、「あなたはキンナが強いから、キンナッチのところに行くといいわ」と薦めたりした。キンナの概念は…ああ、殆ど忘れかけてしまったが、要は「疳の虫」のようなものである。たとえばパーティなどで波長の合わない人間ドモに会ってどっと疲れてしまう、というのもキンナが強いからで、夜泣きをしてむずかったりするのもキンナが強いからなんだそうだ。そんな癇症の人間は、キンナ屋(キンナッチ)のトコロに行き、お払いをしてもらう?とアラ不思議、忌まわしきキンナがすっかりとれ、気分爽快、人見知りもせずいつもニコニコすごせる…という代物らしい。

    で、今回Mは「犬の油」という「裏ワザ」を思い出したわけなのである。(日本で言えばちょうど「ガマの油」という怪しげな薬がそれに近い。)
    ウズベキスタンの犬の油は名前の通りホントーにそのまんま「犬の油」。
    オリーブ油がオリーブの実を絞ってとれた油だとすれば、犬からとれたのが「犬の油」である。

    突然「油」の話をする前にまずは「犬食」の話をしたほうがいいと思う。
    ウズベキスタンの人口の約5%はかつて強制連行された朝鮮人だ。
    おそらくこの地に「犬肉最強伝説」を持ち込んだのはこの朝鮮人であると思われる。
    ただ、ウズベキ人もロシア人も朝鮮人も別に、家庭で普通に犬肉を食ったりはしない。通常のバザールでは犬肉は売ってもいない。
    しかし、タシュケントには朝鮮人が経営する、犬肉が食えるトコロ、犬肉が買えるトコロ、というのが密かに(いや、たぶん案外おおっぴらに)存在しており、タシュケントっ子の間で「アレを食べれば精力絶倫!」などと喧伝されていたのである。

    私は実は犬肉というものを以前北京の天橋賓館で食べたことがあり、全然精力がつかないのを実証ずみだったから(笑)、ウズベキ人の「犬肉信仰」をずっと鼻で笑っていた。
    (ついでに「蟻団子」もソコで食べた。もう、そのまんま、蟻を百匹くらい?団子状に揚げてあった。そんなもん注文するなんて、若気の至りにしても、チャレンジャーすぎる…。今では犬も蟻も蠍も食べたくない。)
    しかし、Mまでが「犬最強伝説(とにかく犬さえ食えば万事OK。無病息災。商売繁盛、って感じ)」を無邪気に信じて、臭い油をヌリヌリしてくれるとは…。
    なんたることだ、と思ったが、「飛行機に乗れない」とか騒いでMを一日中悩ませたのは私なので、いじらしい善意を無駄にしてはならぬ、と我慢したのである。

    ところで、こんな形で「油」にめぐり合う数日前には私はKKと一緒にあのテジコフカ(日曜蚤の市)に行っていた。
    そこで丁度いいサイズのムートン手袋を見つけ、買ったあとで、KKに「変な形だけど、ああ、あったかい。これ何の毛だろうね?」と訊いたら、
    「サバーチカです。」
    「日本語で言いなさい」
    「…ニホンゴワスレマシタ」
    「ウズベキ語で言いなさい」
    「itかなあ。あれれ、日本語はinだった気がします。似てますね。」
    「は?!英語で言いなさい」
    「dogです。」
    「ロシア語でお店の人に他のものと交換したいと言いなさい」

    (店主は朝鮮人なので、ウズベキ語が通じない。朝鮮語とウズベキ語は近いにもかかわらず、朝鮮人はロシア語しかしゃべれない。これは『汎トルコ主義』に対抗していたソビエト流の『民族分断主義』の影響であろう。簡単に言えば、ソビエト政府は二つの言語の構造・文法が似ていることをなるべく認めない方針であった。だから、多分朝鮮人に対して、『ウズベキ語と朝鮮語はそっくりだから、ウズベキ語しゃべってみれば〜?ロシア語より楽だよ』とは誰も提案してくれなかったわけなのである。独立後、この国に韓国人がやってきて、ウズベキ語を話し始めたが、恐ろしく上達が早い。発音も日本人に比べて異常に上手い。私はいつも韓国人と比べられ、『ダメね〜。韓国人の発音の美しさには敵わないわね』と言われていた。その『発音の上手さ』というのは、いわゆる痰を吐くような音をなるべく汚らしく激しく発音することにかかっているので、日本人やトルコ人にはそもそも素質がない。閑話休題)

    「…ニホンゴワスレマシタ」
    「ヤー、ルブリュー、サバーチカ!!!(恐ろしく下手糞なロシア語で『あたし、ワンちゃん、好きなのにい!』と言っているつもり)」
    「犬が好き?良かったですね。」
    「誰が食ったり、着たりしたいかっつーの、ミンクのティペットと交換してよ〜(何故かミンクはOK。)ぎゃ!しかもコレ、よく見たら、子犬の形そのまんまじゃん…こんな不気味な手袋日本で出来ないよ〜(パニック!)」
    「先生?!どうしましたか!?」
    という一幕があった。つまり私は「間引いた子犬の皮をはいで作った?」恐怖の手袋を買ってしまったのである。
    とにかくウズベキスタンでは、犬は油から肉から皮から全て利用しつくして、捨てるところなんてないのだ。(当たり前だが、大部分は番犬としての利用だけど)

    ところであの犬の油だが…結果として…

    何故だか「謎の首ツリ状態」は綺麗サッパリ…とは言わないが普通に歩ける程度には治ってしまったのである。
    Mは「ホラ御覧。効くって言ったじゃないの!日本にも持っていって、皆に教えてあげるといいわ」と有頂天になる。
    馬鹿げた「犬最強伝説」を自ら証明したことになり不愉快だったが、私はおそらく「Mが本気で心配したから」満足して治ったんだと思っている。
    とことんエリカトイなのだった。

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